マンチェスター・バイ・ザ・シー


 好きな映画のタイプで僕が密かにニューイングランド系と思っているものがある。ウッディ・アレン監督の「インテリア」を初めて観たときに、(すごい偏見なんだけど)アメリカ人というのは陽気なだけじゃないんだ、多かれ少なかれ心に葛藤を抱えているんだなということに気付いたのでした。その映画は完璧に趣味の良いインテリアと東海岸ニューイングランド地方のソフィスティケートされた空気が映画そのものの心情を支配しているようで衝撃を受けて、同じアメリカでもカリフォルニアの明るい感じも好きだけど、ニューイングランドのまた違ったかっこよさに開眼しました。

 現在公開中の映画「マンチェスター・バイ・ザ・シー」もまたニューイングランド系の好きなタッチ。
 C・アフレック演じる主人公のリー・チャンドラーは兄の危篤で住まいのボストンから故郷に向かうのだが、病院に駆けつけるも既に兄は帰らぬ人となっていた。
残された遺言状には息子のパトリックが成人するまで親代わりになってほしいと記されている。子どもの頃から慣れ親しんだ甥っ子と新しい生活を始めたいという気持ちを持ちつつも、リーにはどうしても故郷で暮らすことができない理由があったのだ。…

 その故郷というのがマサチューセッツ州に実在する街"Manchester-by-the-Sea"なんだけど、この映画の隠れた主人公は他でもない"Manchester-by-the-Sea"なんじゃないかというくらい美しくも哀しく、そして時には優しく包み込むように切り取られていて印象に残っている。劇的なクライマックスや感動の分かち合いを無理やり導入しない演出方だけどニューイングランドの風景が雄弁なため飽きることなく、かえって誠実な作品に仕上がっているようでした。このあたり、役者や脚本ばかりではなく撮影監督の功績ももっと賞賛されるべきなんじゃないだろうか。決して派手さのない映画だけど、ある程度大人になるとこうゆうものお良さが染みてくるのでした。