白州

 近頃、ふとしたことからウィスキーがとても好きになった。
香りと色味、飲み方のスタイルもいろいろあるし、何よりも蒸留所の個性がもろに出るところが一番の魅力だと思う。
たまたま、父母が住む山梨県北杜市にはサントリー白州蒸溜所があるので、連休を利用して出かけてみた。

 サントリー白州蒸溜所は南アルプスの麓の広大な敷地に建てられたとても美しい溜酒所でシングルモルト「白州25年」及び「白州18年」、「白州12年」、「白州10年」を作っていることでも知られており、見学や試飲会など広報活動にも力を入れている。無料の工場見学と有料だが試飲会とセットになった見学ツアーがある。今回ぼくはインターネットで事前に予約して後者の見学ツアーに参加した。


 麦芽を作る工程、ポットスチル(蒸留器)や樽の貯蔵室などを見られる。樽の貯蔵室ではあの芳醇なアロマが立ちこめて、眠っているモルトの息づかいが聞こえる。このあたり、モルトが生きているんだなとしみじみ実感できるところだ。

 試飲タイムでは幾つかのウィスキーの飲み比べができた。酒はそれが生まれた土地で飲むのが最高にうまい。札幌で飲む「サッポロビール」が格別だと言う人がいるけれど、まさにその通りなのだ。従ってここ白州蒸留所で飲む「白州」は圧倒的だった。角ハイボールなんかもこれはこれで確かにうまいし、どんどん飲めてしまう気がする。がしかし、「白州10年」をハイボールで飲んでみるともう今までの「角」には戻れない。
 今度はストレートの「白州12年」に水を一滴垂らしてみる。すると、なんとも言えず豊かなアロマが広がる(水もやはり地元の水がいいと思う)。加水することで風味がこれほど変化するのは今回初めて知った。
 この「白州」は確かにうまいウイスキーだが、それがどのように旨いのか言葉で説明するのはとても難しい。なので、申し訳ないけど、サントリーのWEBサイトを引用することにしよう。
「爽やかな新緑の香りと果実香が絶妙に調和。ほのかな甘みとスモーキーさを感じるクリーンな味わい。」とある。その通りだ。

 シングルモルトは人に似ていると思う。それはまず生まれ育った環境が一番大事だということ、これだけはどうしょうもなく最後まで付いてくる。山で育った人はおおらかで朴訥、海で育った人がどことなく潮の香りと爽やかさを感じさせることがあるようにシングルモルトも環境によってパーソナリティーのベースが決まる。それから製造工程はまさに人生だ。何を選び何を捨てるか、その結果どのように起伏に富んだ道を歩むのか、そして後戻りは出来ないのも同じである。時を経ることで深みと味わいを増していくこともまたしかりだ。