新しい発見

 人間、いくつになっても新しいことを学ぶことは素晴らしいと思う。

 つい先頃、掃除機を買った話をしてみたい。

 何であれシンプルな生活を好む僕は、今まで部屋の掃除には箒や雑巾があれば十分だと思っていた。だから一度も掃除機のお世話になったことがなかったのだ。1人暮らしを始めた最初期の頃は家具なんて持っていなかったし部屋も狭いので、それこそ雑巾一枚あれば空間の隅々まで綺麗にふきとることができた。

 しかし、時は流れ住宅事情は次第に変化し、部屋にカーペットを敷きベッドを置くようになった。やたらと本が増えるので本棚が欲しくなった。物に囲まれて生活していると、それは否応なく悪い埃を部屋に連れてくる。さらに最近ではどこからともなく黄砂もたくさん飛んでくるように感じる。こうなってくるともうお手上げだ。顔や首などが痒い、くしゃみが止まらない、目を擦るとばい菌が入って目が腫れたりもした。あらゆる場所に潜む埃をこまめに回収するのに残念ながら箒と雑巾は不向きであった。

 電気店の掃除機のコーナーを覗いて、小型で手頃な物をいくつか見てみた。
イメージしていたダサいデザインとは全然違って、最近はおしゃれで機能が良いものがたくさん出ている。中でもD社のものは吸引力が素晴しく、明らかに他社製品とは違う手応えを感じる。当然お値段もよろしく、どう頑張っても買えなかったのであっさり候補から脱落した。D社にはとても及ばないが値段も手頃で評判も良いP社の掃除機を買った。コードレでハンディタイプの割にパワーが十分あるところが購入の決め手だ。

 早速、買ってきたばかりの掃除機を箱から出してカーペットにかけてみたら、これが驚いた。
バリカンで羊毛を刈り取る感じと言えば分かってもらえるだろうか。掃除機の後には海割れのごとく道ができていた。程なくして掃除機かけが快感でたまらなくなり、取り付かれたように、ベッドの下や本棚の後や部屋の角っこやカーテンや網戸まで掃除機を掛けまくった。瞬く間に埃は集塵ボックスの中へと集まり、圧縮された体積は元あった場所に帰るかのようにゴミ袋の中に閉じられた。
 こんな埃だらけの部屋に住んでいれば具合も悪くなる訳だ。

 すっかり掃除が終わると、僕は生まれ変わった部屋の空気を味わった。

 掃除機がこんなに優れた道具だとは知らなかった。これは自分史における革命かもしれない。新しい感覚の獲得、初めて自転車に乗れたときと同じ衝撃が僕なのかに走った。

 しかし良いのか悪いのか、まるで意地悪な姑さんみたいに、ちょっとした埃を発見しては掃除機をかけるという妙な癖が備わってしまった。