サイトウ・キネン・フェスティバルのジャズ勉強会

 少し前のことですが、夏休みにサイトウ・キネン・フェスティバル(以下SKF)のジャズ勉強会の発表会を聞きに松本へ行ってきました。
 今回聞きに行ったやつは古い学校の講堂を会場にして200席位の客席を拵えた実に手作りといった感じの小さい音楽会。でも、かえってこうゆう方が僕の好みで、信州のさわやかな空気と相まって、音楽を聞いて心身の疲れが吹き飛びました。
 クラシックの殿堂SKFで何故ジャズを?とお思いのあなた。SKFディレクターで指揮者の小澤征爾さんが、小説家の村上春樹さんの肝いりでジャズピアニストの大西順子さんと意気投合。今年からジャズ勉強会をやろうという提案が実現したのだ。大西さんは既に現役のピアニストを退いていて、これからは若手の育成や研究に力を入れたいと活動方針を切り替えているところだったのでこの話が実現したのかもしれない。全国の腕に覚えのある受講希望者の中から有望な3名を選抜し大西さん自ら1週間の松本合宿でピアノトリオを徹底指導をする。その選ばれし幸運なピアニストたちは年齢もみな20代前半と若く才能が溢れんばかりの顔つきだ。普段は大学生であったり、地方都市のクラブで演奏家として仕事をしていたりするそうだが、この勉強会で志を同じくする仲間と出会い、そして本物に触れられる。これは願ってもないチャンスだろう。こんな若者が羨ましいと感じた。

 演奏が始まり、最初は緊張気味だった彼らもベースとドラムのサポートに助けられ、また和やかな会場の雰囲気に包まれて演奏の終盤に近づくにしたがって本来の伸びやかさを取り戻していく。最後のディジー・ガレスピー「マンテカ」では大西さん仕込で非常にセンスよく鍵盤をぶっ叩いてくれた。ピアノトリオの醍醐味が最高潮に達した瞬間だ。

 全てのプログラムが終わり、余韻さめやらぬまま外に出ると、辺りはもう暗くなっていた。主催者側が無料の生ビールを振舞っていて、それをもらい、一口ゴクリと飲んだ。興奮で暑くなった体を冷ます。心地よい風があがたの森の方から吹いてきて、それが夏の終わりを教えてくれた。